MAZDA3のというより、新世代商品群になってからのマツダの標準オーディオの音は格段にレベルアップしている。
MAZDA3のスピーカーの配置。BOSEサウンドシステムは12個のスピーカーを配置するが、標準は8個。
ウーファーボックスの位置はここ。写真はマツダの広報フォト。
第6世代と第7世代(つまり、現行のMAZDA3)のフロントドアのスピーカー配置。
リスニングポジションは運転席と全席で選べる。運転席に座って試してみると、かなり聴こえ方が違うことがわかる。
温室モードはシンプルとアドバンスで選択可能。
イコライザーは音楽のジャンルでプリセットされたものからも選べる。
調整幅はいろいろあるが、設定は難しくない。
マツダの第7世代商品群のトップバッターとして登場したMAZDA3は、シートも、ペダルも、ブレーキも、サスペンションも、理想は何なのかを徹底的に考え、そこに近づけようと開発に取り組んだ。オーディオシステムも例外ではない。TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)マツダは理想の音響について、次の2点を理想に近づけることが重要だと考えた(以下、部分的に『マツダ技報2019 No.36』を参照)。1.音源に入っている情報を正しく伝える2.ダイナミックレンジの拡大1.については気をつけなければいけなくて、音源に入っている情報が少なければオーディオシステムがいくら正しく情報を伝えても少ない情報量しか再現できない。音源に入っている情報が多ければ、その情報が正しく再生されて臨場感や深みにつながる。なぜ、こんなことを言い出したかというと、あるとき、あるオーディオブランドのエンジニア氏とこんなやりとりをしたからだ。筆者は無精なので(と、言い訳しておく)、MAZDA3で音楽を聴くときはスマートフォンをBluetooth接続するのが基本だ。無精をしないでUSBでつないだほうが音はいいのではないかと思い、エンジニア氏に質問してみたのである。「どの程度違うんですか?」と。有線接続か無線接続かの問題ではなく、音源にどれだけ情報が入っているかのほうがよほど重要だというのが、エンジニア氏の回答だった。強く圧縮されたがゆえに情報量の少ない音源しかスマホに入っていないのであれば、有線でつなごうが無線で接続しようが大差ないというわけだ。ごもっともである。そのオーディオブランドがデモ音源として提供してくれたUSBメモリーをコンソールボックス内のUSBポートに差し込み、聴いてみた。情報量の多い音とはこういうことかと、合点がいった。音のスケール感が断然違う。マツダは「音源に入っている情報を正しく再生できる」試聴室を社内に持っており、そこで再生する音をリファレンスとして、MAZDA3のサウンドシステムの開発にあたった。2.のダイナミックレンジの拡大については、あらゆる走行シーンにおいて20Hz~20kHzの幅を持つ人間の可聴周波数帯域の全範囲で雑音の影響が少ない状態を目指した。そのために、走行ノイズの低減と、最大可聴閾値付近(ボリュームの大きな領域)まで低歪みで再生できるスピーカーとレイアウト、より異音を誘発させない車両構造を実現しなければならないと考えた。フルレンジスピーカーでは上記の目標を達成できないと考え、MAZDA3ではまず、低域と中高域を分けることにした。低音は指向性が高くない(音の到来方向を認知しにくい)ので、スピーカーが目の前にある必要はない。低音用スピーカーを車室内のどこに置くと再生効率が高いかCAE解析を行なった結果、車室のコーナー部に配置すると再生効率が高くなることがわかった。そこで、従来はドアに配置していた口径の大きいスピーカーを外に出し、カウルサイドに埋め込むことにした。助手席側でいえば、グローブボックスの下、足元に位置する。そのカウルサイドに容量3lのウーファーボックスを埋め込んだ。10l以上の容量を持つバスレフ型ウーファーを埋め込むと20Hzまでの重低音を再生できることが計算でわかっていたが、物理的に厳しかったため、3lに落ち着いた。3lだと再生可能な周波数の下限は60Hzになってしまうが、低域の量感を感じやすい60~200Hzの音圧レベルを充分再生できる開発を行ない、低音の量感が充分に得られるようにした。従来のドアマウントに対するボディマウントのアドバンテージを充分に生かしている。その甲斐あり、Mazda Harmonic Acoustics(マツダ・ハーモニック・アコースティックス)と名づけた純正サウンドシステムは、キレのいい低音を鳴らす。中高域に関しては2.5cmのツイーターをAピラーの付け根、8cmのスコーカーをドアハンドルの前方に配置。リヤドアには8cmスコーカーを設置する。低音はすべてフロントカウルサイドのウーファーでカバーする構成だ。MAZDA3の先代にあたるアクセラを含む第6世代商品群は、インストルメントパネル上面に中高域再生用のスピーカーを配置していた。この配置だとスピーカーの再生音は必ずフロントガラスに反射するため、乗員は直接音と反射音が干渉した音を聴くことになった。Mazda Harmonic Acousticsのツイーターとスコーカーは、ガラスの反射を極力なくし、直接音が主体となって聞こえるような配置にしている。スピーカーの配置は車両中心線に対して左右対称なので、中心線に対してオフセットした位置にいる乗員の耳に、理想的な状態で届かない。そこで、MAZDA3のサウンドシステムは、「運転席」モードと「全席」モードの2種類の音響空間モードを設定した。DSP(Digital Signal Processor)によって時間と位相を調整し、運転席モードではドライバーの耳の位置で最も良い音が聴こえるようになっている。全席モードは運転席と助手席の耳位置の中間点で最適になる設定だ。筆者はひとりでMAZDA3に乗ることが多いので、通常は運転席モードを選択して「いい音」を楽しんでいる。MAZDA3のサウンドシステムは豊富な調整機能を備えているのも特徴だ。Bass(低域)とTreble(高域)のレベルや前後左右のバランスといった一般的な項目のほか、イコライザーも備える。周波数帯域ごとに細かく調整できるが、筆者には手に負えない(キリがない?)ので、PopやRockにJazzなど、音楽のジャンル毎に最適化された設定を選んで楽しんでいる。間違いないのは、以前のクルマに比べて音楽を楽しむ時間が増えたことだ(相変わらず、Bluetooth接続だけれど)。
世良耕太
最終更新:MotorFan