一度は食べてみたいけど、食べたことがないもの。その筆頭格が「ヨード卵・光(ひかり)」ではないでしょうか。
一時はテレビCMで誰もが知っていたほどのブランド卵でしたが、私を含め「知っているけど、食べたことがない」人も多いのでは。だってふつうの卵より高いし。
しかしそのCMも最近とんと流れなくなったいま、ヨード卵・光はどうなっているのでしょうか。そもそもあのヨード卵・光って、ふつうの卵と何がちがったのか。
今回は横浜みなとみらいのランドマークタワーにある、(実は三菱商事グループの)日本農産工業におじゃまして、ヨード卵部のマーケティンググループ グループリーダーの後藤健さんと、係長の福本依里さんにそのヒミツをうかがいました。
生まれてはじめて、ヨード卵・光を実食
その前にまず、ヨード卵・光を卵かけごはんにして食べてみましょう。 生まれてはじめて食べるヨード卵・光にワクワクが止まりません。
▲まずは通常より少し固いとされる殻を割って
厚い殻を破ると、こんもりとした卵黄が出てきました。これをごはんに載せると、それだけで幸せな気持ちになります。やっぱり卵は日本の食卓の王様です。
弾けんばかりにふくらんだ黄身をつぶして、白身とともにかき混ぜていきます。その様子を見ているだけでうれしい。
ちなみに卵のかき混ぜ方には一家言ある福本さんによると、空気を含ませながら混ぜるとふんわりおいしく仕上がるのだとか。私のように力まかせにグリグリと回すのはNGです。
その見事なかき混ぜっぷりに見とれているうちに、いよいよヨード卵・光の卵かけごはんが完成しました。
気のせいか、いつものふつうの卵で回すよりも黄色く光って見えます。私が貧乏性なだけなのか、それとも……。
いよいよ実食です。朝からごはんを食べずに、このときを待っていた筆者。思わず謎の笑顔になります。
口に含んでみると雑味がなく、黄身の味が際立っている感じでおいしい。後述する「ふつうの卵の3.56倍のコク(株式会社味香り戦略研究所との共同研究より)」があるかまではわかりませんが、卵を食べた満足感を存分に味わえる卵だと思いました。
しょうゆをかけても、しょっぱさとのコントラストが際立ってとてもいい。実においしい卵かけごはんを堪能しました。
発売まで25年もの歳月をかけた
──このヨード卵・光は、まずふつうの卵とどう違うんですか?
後藤さん(以下敬称略):カンタンに言うと、ニワトリに与えるエサがちがうんです。必須ミネラルのひとつ「ヨード(ヨウ素)」が多く含まれた海藻の粉末などをエサに配合することで、ニワトリの体内でヨードが卵に移行し成分に含まれて、ヨード卵・光になるんですよ。
──ほおお。
後藤:我々は1951年から、ヨードを含んだ卵と健康に関する研究を進めていまして、そこから25年の研究期間を経て、1976年に満を持して発売したのがヨード卵・光です。その後も、現在にいたるまで半世紀以上研究を続けています。
──発売まで25年はものすごいスパンだ……なぜそんなにかかったんですか?
福本さん(以下敬称略):もともと弊社は飼料の会社なんですけど、ヨード卵の働きがわかったのは大学との共同研究なんですよ。開発当時からずっと臨床研究や基礎研究を続けてきた関係で、かなり時間を要しました。
──臨床研究は慎重にやらないといけないからかぁ。それにしても25年は長い……
富山の薬売り方式でなんとか売った
──1976年のヨード卵・光の発売当時、反応はどうでしたか?
福本:「高い」と思われていたと思います。当時はふつうの卵が1個20円なのに、1個50円で売っていたので。なかなかお店に置いてもらえなかったんですよ。
▲1個50円はいまの価格とほとんど変わらない。物価の優等生
──ヨード卵・光にも苦労時代があったんだ。
福本:その当時は卵といったら10個入りがメインでしたし、ヨード卵・光のような赤みがかった卵がそもそも少なかったので。
▲写真提供:日本農産工業株式会社
福本:で、なかなか置いてもらえない中でどうやって販路を拡大するか。それが「富山の薬売り」みたいな置き薬方式だったんです。売れた分だけお金をもらう仕組みで、売れ残った分は引き取りました。
──良心的というか、苦肉の策ですね。
福本:卵は生鮮食品なので、使用期限の長い薬と同じ販売方法は大変だったんですけれども、何とか置いてくれるお店も増えてきて、徐々に根付いていきました。
──苦労が実ったわけだ。
後藤:ちなみに最初は全国販売されていなくて、首都圏限定商品でした。協力していただける農場さんを首都圏から少しずつ広げる必要があったためです。
ヨード卵・光が高いワケ
──ちなみにヨード卵・光はなぜ高いのですか?
福本:よく言われます(笑)。ただ、ヨード卵ってニワトリのエサもグレードの高いものを使っていますし、さらに発売前から25年間ずっと研究を続けていて、いまも良い卵を作るため研究し続けていますから、どうしてもそこにかかる費用の一部をお値段に反映させていただく形となってしまいます。
▲写真提供:日本農産工業株式会社
後藤:たとえばエサに使う魚粉ってふつういろんな魚がまぜこぜに入っていて、基本的には赤身魚が多いんですが、ヨード卵・光を産んでいるニワトリには、比較的臭みが少ないとされている淡白な白身魚だけを使っているので、卵も臭みが少ないんです。
──生臭さが少ないのはありがたいですね。
福本:白身魚自体もコストが高いですし、さらに魚種を限定するのにも追加コストがかかるので。あとは「ヨード卵・光認定農場」っていう、75のチェック項目に合格した農場でないと作れないので、そこにもコストがかかりますね。
──ほかに値段に反映されるポイントはありますか?
後藤:ヨード卵・光の透明パックは専用のものなんですよ。
──ふつうのパックと何がちがうんですか?
後藤:卵の品質を守る設計になっていて、一度ふたを開けてもまた閉められる仕掛けがあるため、開いたままになりにくいんです。
▲開けてもまたはめ込んで閉じることが可能
福本:あとパックが固いです。
──確かに、ちょっとぶつけても大丈夫そうで安心感がありますね。
後藤:実はヨード卵・光自体も比較的若いニワトリの卵しか使っていないので、殻が頑丈なんです。
──ほおお、そうなんですか。
後藤:高齢のニワトリが産む卵は、殻の薄いものが増えてきてしまうんですよ。
福本:あと若いニワトリが産む卵の卵白は、モリッと盛り上がりがいいんです。
──割ったときに気持ちが高まりますね。
▲割りたてのヨード卵・光の卵黄
後藤:また試食の際にもチラッとお話しましたが、「株式会社味香り戦略研究所」の味覚センサーによるとコクはふつうの卵の3.56倍あって、おいしさも実証されているんですよ。
──ドドド~ンと立て続けにセールスポイントを並べてきましたね。確かに惹かれるところも多いですが、金欠の私はそれでもサイフと相談してしまいます……。
福本:(笑)。ヨード卵・光が特別高いというよりも、そもそも卵自体の価格設定が安すぎるので。
──ガチの泣き言ですね。ただ、卵が安すぎてニワトリ農家さんってホントに困っていると聞きますから、こっちのほうが適正価格なのかもしれません。これでも1個50円ぐらいですもんね。
ポポラマーマでもヨード卵・光
──他社でヨード卵・光を使った商品が出ていますが、どんなものがありますか?
後藤:有名なところで言うと、サンドイッチの専門店である「メルヘン」さまでは、タマゴサンドなどにヨード卵・光を使っていただいていますね。
▲写真提供:日本農産工業株式会社
後藤:あとはゆであげ生パスタ専門店の「ポポラマーマ」さま。カルボナーラなどで使われています。
▲写真提供:日本農産工業株式会社
かつては「ヨード卵・光のたまごボーロ」があった
──ヨード卵・光には温泉たまごバージョンもあるそうですけれども。
福本:はい。温泉たまごは1987年に生まれました。そのころはヨード卵・光の認知も高まっていたので、いろんな加工食品に手を伸ばしていましたよ。
──どんな加工食品があったんですか?
後藤:たまごボーロや卵酒、卵がゆやのど飴にそうめんもありました。
──なかなかのラインナップですね……食べたかった。
▲これが「ヨード卵・光の温泉たまご」
▲温泉たまごと同年の1987年に発売された、ヨード卵・光を使用した手延べそうめん「光の糸」
福本:マヨネーズはいまも売っています。
──へぇ、ヨード卵のマヨネーズとは。
福本:味が濃くてけっこう人気なんです。あとはお湯を入れれば食べられる、フリーズドライスープも出しています。実はフリーズドライのスープって、当時はまだ他社商品も少なかったので、けっこう話題だったんですよ。
若者への認知度がイマイチ
──正直なところ、最近はテレビCMもやっていないですし、名前を聞かない感じがするんですが。
後藤:全国のスーパーにどれだけ置かれているかを見る配荷率によれば、まだ8割強のお店で置かれているんです。
──あらゆるスーパーの8割強?
後藤:数あるブランド卵の中でも、47都道府県どこでも発売されている卵はヨード卵・光だけだと思います。ただ、最近はCMをあまり打たなくなったので、確かに若い人の認知度は若干落ちましたね。
──いまと昔で事情が変わってきたことはありますか?
福本:他社さんのブランド卵がどんどん出てきました。発売当時、ブランド卵はヨード卵・光しかなかったんですけれども、ここ20年ぐらいで一気に競合商品が増えましたね。
──確かに、いろいろありますね。
後藤:全国だとたぶん1,000種類は超えているんじゃないかと思います。
──ヨード卵・光がさきがけと思えばある意味誇らしくはありますが、ライバルは増えたんですね。若い人に、もっとヨード卵・光を知ってもらうための工夫などはしていますか?
後藤:実はあまり知られていませんが、よりヨード卵・光に親しみをもっていただくために公式キャラクターとして「ひかりん」を登場させました。「ひかりん」には今後もいたるところで活躍してもらう予定ですので、ぜひご期待ください。
福本:ちなみに着ぐるみもありまして、イベントなんかにはこれで登場します。
後藤:と、こんな感じになります。
──子どもには人気が出そうですが、この狭い部屋でやっていると哀愁が漂いますね。
料理にはなるべく生で使うのがオススメ
──特にヨード卵・光のおいしさが引き立つ、カンタンなレシピのようなものがあれば、おしえていただきたいと思います。
福本:ヨード卵・光って、生でこそおいしさが伝わると思うんですよね、卵かけごはんや半熟気味の目玉焼きとか、卵の黄身がトロッとした濃さが伝わる、生寄りの食べ方がオススメですね。味がもともと濃いので、あまり味付けしなくてもOKです。
後藤:「今日はすき焼きだから特別にヨード卵・光を使おう」っていうケースはけっこうあります。
──それを聞いただけで気持ちが高まりますね。卵でぜいたくするって言っても、1個20円と50円の差ですから。
3世代が食べ続ける、伝統ブランドを守りたい
──最後に、ヨード卵・光を作る上でいちばん大切にしていることはなんですか?
福本:やっぱりヨード卵・光は人の口に入るものなので、お客さまに安心して食べていただけるように、安全面をしっかり気にしながら作っていきたいと思います。
──ちょっとお高い値段も安心料だと思えばいいと。
後藤:ヨード卵・光はおばあちゃんの代から3世代食べ続けていらっしゃるご家庭もけっこうあるんですね。「うちはヨード卵・光しか食べない」って。そんな方たちのためにも安心を届けたいです。
存在は知っていたけれども、正体はわからない。近くて遠い存在だったヨード卵・光に今日グッと近づいたことで、なんだかもっと食べたくなってきました。
ヨード卵・光はふつうの卵よりちょっと高いゆえの、ちょっとワクワクできる付加要素をいろいろ持っていました。ヨウ素(ヨード)だけに。
書いた人:辰井裕紀
卓球と競馬とサッポロ一番みそラーメンが好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当しておりローカルネタが得意。
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