耳の穴の皮膚が傷つき、炎症を起こす「外耳炎(外耳道炎)」。耳掃除が原因になりやすいが、最近ではイヤホンの使いすぎで発症するケースも多いという。耳にかゆみや違和感、痛みが出たら注意したい。
写真はイメージ=123RF耳の入り口から鼓膜につながる部分を外耳道と呼ぶ。皮膚は薄く、物理的な刺激によって炎症を起こしやすい。外耳炎は比較的身近な耳のトラブルだが、初期症状のかゆみや違和感が気になって頻繁に触ってしまうと、症状が悪化しかねない。かゆみが強くなったり、痛みが出てきたりする場合がある。
外耳炎はもともと耳掃除のやりすぎや補聴器が原因になることが多かった。新型コロナウイルスの感染が広がり、リモート環境で仕事や勉強をする人が増えたここ1年ほどの状況をみると、イヤホンの使用が原因となる例が目立ってきているようだ。
耳鼻咽喉科専門医で大阪大学医学部の前田陽平助教は「イヤホンの使用が長時間になるほど、外耳炎になるリスクが高まる」と指摘する。外来診療を通じてこうした傾向に気づき、SNS(交流サイト)で注意を呼びかけた。実際に心当たりのある多くの人から反響があったという。
周囲の環境が許すときにはイヤホンではなく、スピーカーで音声を聞いたり、ヘッドホンを使ったりして、外耳道への刺激はなるべく避けるようにしたい。前田助教は「イヤホンを使う場合は長時間にならないように注意するのはもちろん、付着した汚れを拭き取り、清潔に保つことも大切だ」と強調する。
耳鼻咽喉科日本橋大河原クリニック(東京・中央)の大河原大次院長は「入浴後に綿棒で耳掃除をしたり、耳の中に入った水を吸い取ろうとしたりする人が多いが、外耳炎の原因になるのでやめたほうがいい」と助言する。
大河原院長によると、耳には自浄作用があり、耳あかなどの汚れは自然に外へと出てくる仕組みになっている。だからこそ耳掃除のやりすぎは禁物だ。とりわけ「綿棒は耳掃除には適さない」。市販の一般的な綿棒は太くてかたいものが多く、耳あかを取ろうとして、かえって耳の奥へと押し込んでしまいやすいのだという。
大河原院長は「『耳の中に水が入ったままにしておくと中耳炎になる』という説があるが、無理に出そうとしなくていい」とも話す。単に水が入るだけでは中耳炎にはならない。むしろ水を出そうと、耳の奥まで無理に綿棒や指を入れてしまうと、外耳道だけでなく、鼓膜まで傷つけることがある。
米国では耳鼻咽喉科の診療ガイドラインなどに「健康な状態ならば、耳掃除は必要ない。耳の中にモノを入れるべきではない」といった内容が明記されているという。
日本ではそこまで強い指針は示されていないものの、耳掃除をする場合、耳の入り口付近までにとどめておくのが望ましいようだ。前田助教は「耳あかが詰まりやすい人は耳鼻咽喉科を定期的に受診して、耳掃除をしてもらうといい」と語る。
耳にかゆみや違和感があるときにはイヤホンの使用や耳掃除は控えておく。一過性の症状なら、しばらくすれば自然に治る。外耳道への刺激を控えていても、かゆみが続いて触らずにいられない、痛みや腫れ、ただれがあるといった場合には耳鼻咽喉科を受診するようにしたい。
外耳道の皮膚にできた傷から真菌(カビ)が入ってくると、外耳道真菌症を引き起こすことがある。外耳道真菌症になると、強いかゆみや耳だれ(耳漏)といった症状が起こる。いずれにしても、外耳道に過度な刺激を与えないことが肝要だ。
(ライター田村知子)
[NIKKEIプラス12021年4月24日付]
この記事は、日本経済新聞電子版「健康づくり」からの転載です。