3月3日「耳の日」、ヤマハが完全ワイヤレスイヤホンの新製品 TW-E5B を発表しました。
市場想定価格1万6500円前後のミッドレンジ製品ながら、楽器メーカーでもあるヤマハの音へのこだわりに加え、耳に優しい小音量でも音楽が楽しめるよう低音域・高音域を補完する機能リスニングケア、低遅延のゲーミングモード、着けたまま周囲の音が聞けるアンビエントモード、本体に3つの物理ボタンを備えた操作性など小ネタの効いた新型です。
ヤマハ TW-E5B(Amazon)
ヤマハTW-E5Bの主な仕様は、
など。逆に主な仕様で触れない「ないもの」はアクティブノイズキャンセル、ウェイクワードを使ったハンズフリー音声アシスタント起動(ボタンを押せば起動はできる)、ケースのQiワイヤレス充電など。
完全ワイヤレスイヤホンに求められる代表的な機能のひとつであるアクティブノイズキャンセリング(ANC)には非対応。 最近では1万円以下の格安製品でも機能としては対応を謳うことが多く、アリ・ナシだけでみれば候補から外されてしまう仕様です。
しかし一方で、ヤマハが2020年に発売したアクティブノイキャン対応の最上位モデルE7A (充電関連の不具合で回収・終売)が示したように、カタログ的に「アクティブノイズキャンセル対応」であれば効果が保証されるのか、肝心の音への影響はないのか、非対応モデルより常に上かといえばそうともかぎりません。
従来モデルの反省点を踏まえて発売するE5BはANCに非対応ながら、新形状で装着性を改善し密閉性を高め、音質向上とともにパッシブなノイズキャンセリング性能つまり遮音性も高める道を選びました。
ANCこそないものの、耳栓型のイヤホンを日常使いするうえで大事なアンビエントモードにはちゃんと対応。片耳につき2つのマイクで外音を取り込むことで、話しかけられたときやレジ前でも慌てて引っこ抜くことなく、周囲の物音に気づけます。
アンビエントモードこそ、ある意味でアクティブノイズキャンセル以上に「あり・なし」では語れず実際の性能が重要な点です。ごく短時間かつ限られた環境で実機を試した範囲では、話し声も自然に聞こえ、特定の周波数帯が耳を刺すようなことも、常にホワイトノイズといったこともありませんでした。とはいえ外音取り込みの聞こえ方には個人の聴覚特性や慣れも大きいため、店頭で試すことを強く勧めます。
アンビエントモードとも関連する安全性や耳の健康については、ヤマハの独自機能リスニングケアを従来モデルから引き続き搭載。人間の聴覚の特性として、小音量では高音域や低音域が聞き取りづらくなるため、ジャンルによってはある程度音量を上げないと味気なくつまらない音になりがちですが、リスニングケアでは音量に応じて「小さくても良い音」に調整するというふれこみです。
低遅延のゲーミングモードはNintendo Switchでも有効
最近の完全ワイヤレスイヤホンで採用が増えてきたゲーミングモードは、スマホなどの端末が音の信号を発してから、実際にイヤホンが鳴って耳に届くまでの遅延を低減する機能。
Bluetoothの音楽用伝送形式は遅延の軽減よりも途切れにくさを優先してきたため、データが届かない間も場をつなげるよう一定量をバッファしてから再生します。ゲーミングモードではこのバッファを最適化したり、通信プロトコルの一部を簡略化して「届いたそばから鳴らす」ことで遅延を軽減する仕組み。
副作用として接続性・安定性は落ちますが、スマホを目の前で手に持っているはずのゲームプレイ時であれば削れるマージンを削る発想です。
低遅延のBluetoothオーディオといえば、音を符号化して転送するコーデックのレベルで最初から低遅延仕様の製品もありますが、その場合は送信側の端末も低遅延コーデックに対応が必要です。たとえばNintendo SwitchはSBCのみに対応するため、低遅延コーデックが売りのBluetoothゲーミングイヤホンを買っても有効にできません。
しかしヤマハによれば、TW-E5Bのゲーミングモードはコーデック不問。原則的にはどの機器でも使えるSBCでも遅延を軽減できるとのこと。具体的な数字は示していませんが、「遅延が特にシビアな音ゲー以外であればおおむねプレイできる程度」との表現でした。
最大の売りはアコースティック設計と「True Sound」音質
細かな改良点や便利機能が多い製品ですが、ヤマハのイヤホンとしての売りはやはり音質。ヤマハでは
・高音域から低音まで、ひとつひとつの音の分離感を高めるTonal Balance
・音の立ち上がりをしっかり表現できる、弾力性のある音。Dynamic Sound
・小さい音も漏らさず、前後の距離感、空間の広がりを伝えるサウンド。Sound Image
の3点を掲げています。ヤマハの音質へのこだわりを示す「True Sound」はただの掛け声ではなく、高級スピーカー等も含め全製品の音質を検証する独立チーム True Sound Team によるお墨付きを得てようやく発売する体制を構築しているとのこと。
社内チームで「高いハードル」と言われても、という気もしますが、音質の評価はそれ自体がノウハウであり、オーディオメーカーの魂ともいえます。
設計上の売りはドライバから鼓膜までが直線上にあること、硬く応答性が高くクリアな高音域を再生できるPEEK素材の振動板採用、やや大きなハウジングで内部容量を稼いだこと。
完全ワイヤレスイヤホンのスペック勝負ではドライバの直径がよく取り沙汰されます。ヤマハによれば製品版よりも大きなドライバを含めさまざまなテストを繰り返した結果、完全ワイヤレスイヤホンとしての筐体サイズ、内部の容量とのバランスで総合的にもっとも高い音質を実現できるドライバとして7mmを選択したとのこと。
短いハンズオンでは音質評価というほどにも聴けませんでしたが、試用時間にふさわしい字数で表現するなら「おっ!😲」。中価格帯で音質優先というかたはぜひ店頭で試聴をおすすめします。
めずらしい物理3ボタン仕様
ヤマハは特に推していないものの微妙に面白いのは、ヨコ方向つまり耳の穴と直交した方向につまんで押すボタンを採用すること。
完全ワイヤレスイヤホンには物理ボタンを押し込む製品、軸をつまむ製品、タッチセンサを使うものや振動センサを使うものなど様々な操作方法がありますが、耳栓型で密閉度が高いイヤホンほど、本体をタップすると振動が鼓膜に響いて不快な問題があります。ひどいものでは、何気なくタップすると外音取り込みのマイクにジャストミートしてノイズが響くような製品も。
従来モデルはタテに、つまり耳の穴の方向に押し込む物理ボタンだったのに対して、E5Bのボタンはヨコに、本体をつまんで押す形式。しかも右側には2つのボタンがあり、ダイレクトに音量を調整できます。曲送りと戻しも独立してダブルクリックを割り当て。
単体での音量調整ができない製品や、戻しに判定のシビアなトリプルタップが必要な製品が多いなかで好感が持てる仕様です。
ヤマハTW-E5B