Beats by Dr.Dre「Beats Studio Buds」
Beats独自の最新Bluetooth SoCを搭載
Beatsの完全ワイヤレスイヤホンは、2019年発売の「Powerbeats Pro」に続く2機種目となります。Beats Studio Buds(以下:Studio Buds)はイヤーハンガーを持たないカナル型(耳栓タイプ)。ノイズキャンセリング(NC)と外音取り込み機能(Beatsの機能名称は「外部音取り込み」)を搭載しています。Beatsのクラシックカラーである鮮やかなレッドのほか、定番のブラックとホワイトがそろいます。
Studio Budsが搭載しているBluetoothオーディオ向けチップはAppleのものではなく、Beatsが独自に開発したSoC(System On Chip)です。これによりiPhoneやiPadとの多彩な連携機能が使えるだけでなく、後ほど触れますが、Androidデバイスとのワンタッチペアリングなど連携を深めたことにも要注目です。
USB-C充電対応。イヤホンだけで最長約8時間再生
Studio Budsは内蔵バッテリーで最大約8時間、NC機能をオンにしたまま使うと最大約5時間の連続音楽リスニングが楽しめます。充電ケースにより2回のフルチャージができるので、最大約24時間(NC・外音取り込みオフ時)の連続使用ができる計算です。ケースはワイヤレス充電には対応していませんが、Beats独自の急速充電「Fast Fuel」機能により、約5分の充電で約1時間のリスニングが楽しめます。
充電ケーブルは「Beats Flex」(2020年発売)に続き、Studio BudsもUSB Type-Cになりました。新しいiPad Pro/Air、Androidデバイスと充電ケーブルを使いまわせるメリットがあります。ただ、長時間の外出時にはiPhoneのLightningケーブルとStudio Budsの充電用に2本のケーブルを持ち歩く必要があります。今後iPhoneの方がUSB-C端子を採用したり、ウワサされている“端子レス”に仕様を変更することはあり得るのでしょうか。
AppleとGoogleの紛失防止機能に両対応
最近ではワイヤレスイヤホンの紛失防止機能が注目されています。Studio Budsは、Appleの「探す」アプリによる探索と、Android OSの「デバイスを探す」機能による探索の両方に対応するBeats初のイヤホンです。
それぞれ左右のイヤホンがケースから取り出された状態で紛失しているという“前提”が必要ですが、万一のときにはスマホによる操作でイヤホンからビープ音を鳴らして探せます。充電ケースに入れたまま紛失することもままあるので、どちらの場合も探せればベターでしたが、このあたりはAppleのAirPods Proと仕様をそろえているのかもしれません。
Studio Budsに最適化したドライバー
Beats Studio Budsについて、筆者はふたつのポイントに注目しています。ひとつめはAirPods Proや、従来のPowerbeats Proとの「音の違い」です。
Studio Budsはコンパクトな本体の中に、2種類の硬度が異なるポリマー系素材によって構成されたダイナミック型振動板を搭載しています。口径は8.2mmとゆったり大きめ。ドライバーを格納するハウジングの後ろに、主に低音域を増幅させるための音響室を別途設けたことで、つながりよく切れ味鋭いサウンドを再現します。
さらに、独自のチップが備える高い演算能力により、一種のフィルタリング効果のアルゴリズム処理を行い、NC機能をオンにした場合でも音がこもらないクリアな音を引き出します。アルゴリズムの解析処理は毎秒48,000回という驚くべきスピードで行われ、ステレオイメージの分離感、明瞭度の高い音楽を再現できるそうです。サウンドインプレッションは後ほど詳しくお伝えします。
iOS/Androidに“ネイティブ対応”する初の完全ワイヤレス
もうひとつのポイントは、iOS/Android双方デバイスとの高い連携性です。
Beatsは2014年からAppleの傘下に入り、以降もポータブルオーディオを中心に革新的な製品を世に送り出してきました。Powerbeats Proなどこれまでの製品にはApple独自のApple H1/W1チップを載せて、主にiPhoneやiPadなどAppleのデバイスとのスムーズなペアリング設定、音楽再生のハンドオフなど魅力的な機能を実現してきました。これらの機能が新製品のStudio Budsでも変わらず使えます。Appleのデバイスと組み合わせて使う場合、別途アプリのインストールが要らないこともメリットになります。
Androidデバイスで使う場合は、「Beats」アプリを端末にインストールすると、Appleのデバイスと同じ感覚でイヤホンの操作や細かな機能設定ができます。イヤホンの設定項目、バッテリーのステータスなどがアプリの画面から一望できるので、こちらも非常に便利です。
さらにAndroid 6.0以上を搭載するスマホとBluetoothペアリングを行うときには、Google Fast Pairによるワンタッチペアリングに対応します。iPhoneとAndroidスマホのユーザーがともに変わらない使い勝手で、音楽再生を始める前の準備を素早く簡単にできる唯一無二のワイヤレスイヤホンが誕生しました。
軽く快適な装着性。側面のbボタンで操作
Beats Studio Budsの細かい機能や装着感の特徴を見ていきましょう。
Studio Budsのイヤホンの重さは片側約5g。充電ケースのサイズはAirPods Proより少し大きめですが、イヤホンのサイズに大きな差はありません。ただ、Studio Budsは突起した形状のハウジング背面をつまんでケースから取り出したり、耳に装着するデザインとしています。ハウジングの表面が少し滑りやすいので、例えば駅ホームや街中を歩きながら着脱すると、落としたり紛失する原因にもなりかねないので注意しましょう。
耳に装着すると本体の側面の「bボタン」がまっすぐ縦に向きます。“Beatsのイヤホンを着けている”ことがまわりにしっかりとアピールできそうです。
左右の側面パネルはタッチセンサーのようにも見えますが、心地よいクリック感が得られるボタン式のリモコンになっています。長押し操作でNCと外音取り込みの切り替え、または音声アシスタントの起動ができます。ただ、Powerbeats Proがボタン操作で対応していた「音量のアップダウン」がないところは残念です。
ハウジングは密閉型。マイクが内蔵されていると思われる小さな孔がトップにあります。そしてノズルの根元にはドライバーの背圧を逃して心地よいリスニング感を引き出すための小さな孔を設けています。
耳に触れる側に柔らかいカーブを付けたデザインとしたハウジングはフィット感も上々。付属のシリコンイヤーピースと合わせて、NC機能をオンにしなくても一定の高い消音効果が得られます。
Apple Musicの空間オーディオがスムーズに楽しめる
Appleの音楽配信サービスであるApple Musicが2021年6月からスタートした「ドルビーアトモスによる空間オーディオ」に対応するコンテンツをiPhoneやiPadで再生するときは、Studio Budsも自動で空間オーディオ再生に切り替える設定が選べます。
Studio Budsの本体はAirPods Proと同じIPX4相当の防滴対応です。軽くて装着感も心地よいので、スポーツシーンでも大活躍してくれるイヤホンです。
AirPods Proとの違いとして、Studio Budsでは「イヤーチップ装着状態テスト」や「空間オーディオのデモンストレーション」が使えません。また現時点でApple TV+などビデオ系コンテンツが対応している、コンテンツの音の定位がイヤホンを装着した状態で顔の向きを変えても、あるべき方向から聞こえてくる「ダイナミック・ヘッド・トラッキング」機能には非対応です。空間オーディオの一歩進んだ連携機能を重視する方は、AirPods Proを選ぶべきです。
NC/外音取り込みの効果は? AirPods Proと比較チェック
音楽再生をチェックする前に、NCと外音取り込み機能の効果を試してみます。
NCはBeats独自のアルゴリズムにより、Studio Budsに最適化した遮音性能としています。付属するシリコンピースと、密閉度の高いハウジングの効果により、音楽を鳴らさない状態でも邪魔な環境ノイズをぐっと下げてくれる効果が実感できます。エアコンのファンノイズ、雑踏の人の話し声などバランスよく消してくれました。AirPods ProのNC機能に比べて、Studio Budsの方が消音効果そのものは高いと感じます。
反面、外音取り込み機能についてはAirPods Proの出来の良さが勝ります。AirPods Proは外音取り込みをオンにすると、まるでイヤホンを外したかのように周囲の音がクリアに聞こえてきます。Studio Budsの外音取り込みも十分な出来映えで、NCと切り換えても音の聞こえ方が変わらないところにはBeatsのエンジニアによる丁寧な仕事ぶりが垣間見られます。ただ、シリコンイヤーピースとハウジングの形状による、元のパッシブな遮音性能が勝るため、外音取り込みモード時の音の抜け感はAirPods Proの方が勝っていると感じます。
NC、外音取り込みを「ともにオフ」にする設定を含めて、3つのモードはイヤホンの操作により素早く切り換えられます。モードが切り替わると聞こえてくるビープ音が「上がり調子だとNC」、「下がり調子なら外音取り込み」、「単音はオフ」と覚えておくと良いでしょう。
ボイスガイドで今のモード設定を教えてくれるとなお良かったと思います。ほかにも、iOSの場合はコントロールセンターまたはイヤホンのBluetooth設定、Androidの場合はBeatsアプリから設定のスイッチと確認ができます。Apple Watchユーザーであれば、ウォッチからイヤホンのNC機能を切り替えることも可能です。
Beatsならではの重低音が復活!
Studio BudsのサウンドはApple Musicで配信されている楽曲で聴き比べてみました。Bluetoothオーディオの対応コーデックは、Studio BudsもAirPods Proと同じくAACとSBC。Apple Musicのロスレスコンテンツの再生には現状非対応です。ドルビーアトモスによる空間オーディオは、iOSの場合「ミュージック」アプリのオーディオ設定からドルビーアトモスを「自動」にすると、空間オーディオ対応の楽曲を自動で立体音楽再生に切り換えます。
AirPods Proはニュートラルなバランスの良さが魅力だとすれば、Studio Budsはよりアグレッシブで濃厚、低音にパンチを効かせた躍動感が冴え渡るサウンドだと感じました。少しクセがあるとも言えますが、筆者はこの鮮やかなサウンドにすっかりハマってしまい、いま好きな音楽を片っ端からStudio Budsで聴き直しています。
Appleとのコラボレーションをスタートする以前に、Beats by Dr.Dreのオーディオが他にない個性としていた「パワフルな低音」が復活しています。耳の奥を刺激して、身体の芯にガツンと響くような印象に残る重低音です。以前のBeatsサウンドよりも雑味がなく、クリアで立体的な低音になっているところに進化の深みを感じます。
植松伸夫氏の作曲による、ゲーム「ファンタジアン」のオリジナルサウンドトラックから『大いなる戦い』ではオーケストラによる壮大な情景が描かれます。この小さなイヤホンから生まれる音のパワーと広がりに圧倒されました。引き締まった低音が土台を安定させて、弦楽器のメロディが伸びやかにうたいます。トランペットやホルンなど金管楽器の高音域がとても艶っぽく、華やかで贅沢なシンフォニーに引き込まれます。
松本隆作詞活動50周年を記念するトリビュートアルバムから、DAOKOが歌う『風の谷のナウシカ』ではクールなボーカルがふんわりと宙に漂いながら、波のように寄せては返す距離感の変化を、Studio Budsが非常に心地よく聴かせてくれました。立体的に描かれる空間の中で移動する音像の動きを的確に捉えるイヤホンです。ピアノの粒立ちがとても鮮明で、繊細さと力強さを巧みに描き分ける表現力にも長けています。弾力感の豊かなビートが力強く演奏の足場を固める安定感も見事でした。
充実のコスパが魅力。AirPodsシリーズ対抗?
Beats初のコンパクトなカナル型の完全ワイヤレスイヤホンは、サイズを超えたパワフルでフレッシュなサウンドを大きな特徴としています。NCや外音取り込み機能の完成度も高く、その他のiPhone連携を含む機能もバランス良く備えていました。Beatsのイヤホンを装着していることを周囲にアピールできる個性的なデザインであるところも、ファンにとっては嬉しいポイントです。
充実の完全ワイヤレスイヤホンが17,800円で発売されるのですから、AirPodsシリーズや他社の完全ワイヤレスイヤホンにとってはまた“恐るべきライバル”が誕生したと言えそうです。Beats Studio Budsの登場により、2021年後半戦もまた完全ワイヤレスイヤホンの周辺がますます賑やかになりそうです。